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佐賀地方裁判所武雄支部 昭和49年(ワ)46号 判決

主文

被告らは、各自原告山口田恵子に対し金二六三万五、八〇六円原告山口若樹、同津久美、同千登勢に対し各金九七万八、六〇二円ならびにこれらに対する昭和四七年二月三日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを六分し、その五を被告らの連帯負担とし、その余を原告らの連帯負担とする。

この判決は、原告ら勝訴部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告らは各自原告山口田恵子に対し金二九六万九、一六〇円、原告山口若樹、同山口津久美、同山口千登勢に対し各金一〇八万九、七二〇円ならびに右各金員に対する昭和四七年二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  事故の発生

原告らの被相続人たる訴外亡山口久幸(以下久幸という)は、昭和四七年二月二日午後九時三七分項、自動二輪車を運転して佐賀県杵島郡北方町大字大崎一、〇九八番地中村年広方先道路を北進中、折柄道路上に駐車していた被告花田運転の大型貨物自動車(以下加害者という)に衝突し、頭蓋底骨折ならびに顔面挫創の傷害を負つて間もなく死亡した。

2  被告らの責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によつて生じた訴外久幸と原告らの損害を賠償する責任がある。

(1) 被告橋口は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条による責任。

(2) 被告花田は、暗夜狭隘な道路上に無標識で加害車を駐車した過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条による責任。

3  訴外久幸の損害

(1) 治療費(加茂外科医院) 八、七一〇円

(2) 葬儀費 二〇万円

(3) 慰藉料 四〇〇万円

(4) 逸失利益 七八〇万一、七四二円

年収九六万九、〇〇〇円、控除すべき生活費三二万三、〇〇〇円、就労可能年数一七年として、ホフマン方式により将来得べかりし利益の死亡時現在における価値を算定したもの。

(5) 損害の填補

久幸の損害は以上合計一、二〇一万四五二円となるが、同人の相続人は自賠責保険金四〇〇万二、九六八円を受領(ただし、相続人のうち訴外山口みゆき、同山口俊朗は行方不明なので、右金員のうち八九万円が保険会社に留保されている)したので、損害残額は八〇〇万七、四八四円となる。

(6) 相続分

ところで、久幸には先妻(高久)ミチ子との間に高久欣也、山口みゆき、山口俊朗の二男一女、後妻である原告田恵子との間に原告若樹、同津久美、同千登勢の三女があり、これらの子と原告田恵子が久幸の前記損害賠償請求権を相続し、その相続分は原告田恵子が九分の三の二六六万九、一六〇円、その他の原告らがそれぞれ九分の一の八八万九、七二〇円となる。

4  原告らの損害(慰藉料)

原告田恵子に対し三〇万円、その他の原告らに対しそれぞれ二〇万円が相当である。

5  結論

よつて、被告らに対し、原告田恵子は金二九六万九、一六〇円、原告若樹、同津久美、同千登勢はそれぞれ金一〇八万九、七二〇円およびこれらに対する事故発生の日の翌日である昭和四七年二月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因第一項(事故の発生)の事実中、原告ら主張の日時場所で、久幸運転の自動二輪車が被告花田が駐めていた加害車に接触したこと、久幸が原告ら主張の傷害により死亡したことは認めるが、久幸は加害車に接触後対向車と衝突してこれが原因で死亡したものである。

2  同第二項(責任原因)の事実中、(1)は認めるが、(2)は否認する。

3  同第三項(久幸の損害)の事実は全部不知。

4  同第四項(原告らの損害)の事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第一項の事実中、原告ら主張の日時場所で、久幸運転の自動二輪車か被告花田が駐めていた加害車に接解したこと、久幸が原告ら主張の傷害により死亡したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、本件事故は、被告花田が加害車を運転して事故現場にいたり、同所道路左端に北向きに加害車を駐めて所用で附近の家に行つていた間におこつたものであり、当時事故現場には照明設備がなく、道路幅が五・三五メートルしかないのに、被告花田が尾燈等の燈火を全くつけないで加害車を駐めていたため、自動二輪車を運転して北進していた久幸は加害車の後方まちかに接近してはじめて同車の存在に気づき、急きよ急制動の措置をとるとともにハンドルを右に切つたが間に合わず、自車前部を加害車の後部右端に衝突させ、その衝撃によつて右方に逸走したうえ、折柄対向してきた訴外中小路敏明運転の普通乗用自動車右前部にさらに衝突して前記傷害を負い、まもなく死亡したことが認められ、右認定を左右するにたりる証拠はない。

右認定事実によると、被告花田は、自動車運転者として夜間道路に自動車を駐めるときには、道路交通の危険を防止するため、尾燈などの燈火をつけなければならない注意義務があるのにこれを怠り、夜間照明設備もない狭い道路に、無燈火のまま加害車を駐めた過失を犯し、そのため本件事故を惹起しているものであるから、本件事故につき、不法行為者として損害賠償責任を負わなければならない。

二  また加害車を所有し、運行供用者の地位にあることを争わない被告橋口も、運転手たる被告花田に前記のとおり過失が認められる以上、免責される余地なく、本件事故につき運行供用者として損害賠償責任を負わなければならない。

三  そこで、進んで本件事故によつて久幸と原告らが蒙つた損害につき判断する。

1  久幸の損害

(1)  治療費

〔証拠略〕によれば、久幸の治療費として、佐賀県杵島郡北方町大字大崎一二〇三番地の二の加茂外科医院に八、七一〇円支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

(2)  葬儀費

弁論の全趣旨によれば、原告らが久幸の葬儀をとり行つたことが認められ、久幸の年令、職業、家族関係、社会的地位からして、葬儀費用としては、金二〇万円を下らないことは当裁判所に顕著な事実であるから、右金員を本件事故と相当因果関係ある損害とみるべきである。

(3)  逸失利益

〔証拠略〕をあわせると、久幸は、大正一五年一月五日生の男子であつて、本件事故当時易者業を営み、毎年九六万九、〇〇〇円の収入をえており、これをもつて原告ら家族とともに家計を維持し、租税および自己の生活費として右収入の三分の一を負担していたこと、久幸は通常人とかわりない健康を保持しており、事故時の職業生活を今後なお一七年間は続けえた健康を維持していたこと、が認められ、右認定を左右するにたりる証拠はない。

したがつて、久幸は本件事故発生の昭和四七年二月二日より毎年六四万六、〇〇〇円の純収益を一七年間にわたつて挙げうるものと認められ、これが右事故発生時点での現在価値をホフマン方式により算出すると次のとおり金七八〇万一、六七七円(円未満切捨)となる。

646000×12.0769=7801677.4

(4)  慰藉料

前記認定の事故発生事情その他本件に顕われた一切の事情を勘案すると、久幸の精神的損害を慰藉するには、金三〇〇万円が相当である。

(5)  損害の填補

久幸の損害は以上合計一、一〇一万三八七円となるが、自賠責保険金四〇〇万二、九六八円を同人の相続人が受領したことは原告らの自認するところであるから損害残額は七〇〇万七、四一九円となる。

(6)  相続分

〔証拠略〕によれば、久幸には先妻高久ミチ子との間に高久欣也、山口みゆき、山口俊郎の二男一女、後妻である原告田恵子との間に原告若樹、同津久美、同千登勢の三女があり、これらの子と原告田恵子が久幸の全相続人であることが認められるので、久幸の前記損害賠償請求権に対する原告らの相続分は、原告田恵子が三分一の二三三万五、八〇六円、その他の原告らがそれぞれ九分の一の七七万八、六〇二円となる。

2  原告らの慰藉料

前記認定の事故の発生事情、久幸との家族関係、原告らの相続人としての立場など本件に顕われた一切の事情を勘案すると、原告らの精神的損害を慰藉するには、原告田恵子に対しては金三〇万円、その他の原告らに対しては各二〇万円をもつてあてるのが相当である。

四  そうすると、原告田恵子は金二六三万五、八〇六円、その他の原告は各九七万八、六〇二円ならびにこれらに対する本件事故発生の日の翌日である昭和四七年二月三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による各遅延損害金の連帯しての支払を被告らに対して求めることができるから、原告らの本訴各請求を右限度で認容し、その余は理由なく失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項但書を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 梶田英雄)

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